姉の涙。
一人暮らしなどで家を出ると、今まで分からなかった家族のありがたみがわかる。
僕の姉は去年結婚し、27年間出ることのなかった実家を初めて出た。
それまでの姉は、仕方がない事でも自分が不快に感じる事があれば容赦なく親やおばあちゃんに当たり散らしていました。
そんな姉とは余りしゃべりたくなかった。
仕事などでストレスが溜まるのも分かるけど、あまりに理不尽で、横でテレビを見ているだけでも不快になる事も多々あった。
僕の母方の祖母は一昨年の末に死んだのだけど、それまでは同じ屋根の下、ずーっと一緒に生活してきた。
何年か前、姉の部屋が雨漏りをしていたので、朝に大工さんを呼んだところ、姉がものすごい形相でおばあちゃんに怒り散らした事がありました。
「何で朝に呼ぶのよ!呼ぶんだったら前の日にちゃんと言ってよ!」
おばあちゃんは何とも言い返さなかった気がする。
おばあちゃんは、自分で建てた家の、孫の部屋の雨漏りを直すために大工さんを呼んだ。
姉から言わせれば、久しぶりの休みの日、ゆっくり寝ていたいところを叩き起こされて相当腹を立てたようだが、それでおばあちゃんに怒鳴り散らす姉を全く理解できなかった。
というか嫌った。
今日、姉は旦那さんと家に帰って来た。
姉は高校卒業してからずっと花屋で勤めていて、今ではそれなりに大きい店の店長を務めるほどになった。
母が、長い事努めて凄いね。と、姉をほめると、
「うちにいたときはお母さんが何でも聞いてくれた。でも、実家を離れてお母さんと話せないと本当にありがたみが分かる」
「お母さんに認めてもらえる事が本当に嬉しい」
と言いながら、目に涙を浮かべ始めた。
僕は、それが家を出るって言う事だよね。と言うと、
「でも、ちょっと遅かった」
と言った。
お母さんが「遅くないわよ」
と言うと、
「でも、おばあちゃんは…」
と言って、言葉を詰まらせた。
僕も姉もお母さんも、それ以上何も言わなかった。
おばあちゃんが死ぬ前に、姉はそれに気づきたかったんだと思う。
僕は、姉がおばあちゃんに対してそういう思いを持てたという事が嬉しかった。